Googleアナリティクスは無料のデジタル分析ツールであるとともにユビキタスな広告プラットフォームでもあり、デジタル分析市場で最大のシェアを誇っています。
Amplitudeのユーザーの多くも、AmplitudeとGoogleアナリティクスを併用しています。
Amplitudeのパワーユーザーも例外ではなく、その理由はGoogleアナリティクスがデジタル広告分野で独占的な力を持つGoogleの広告ネットワークと密接に統合されているからです。
Googleがユニバーサル アナリティクスを廃止するとアナウンスして以来、私たちはAmplitudeのユーザーから多くの質問を受けるようになりました。
そこで今回は、私が受けた最も一般的な質問と、これらの会話で提供した回答のいくつかを共有します。ただし、皆さんGoogleの最近の影響を懸念しているため、下記に寄せられた質問は少し悲観的になってしまっていることを心に留めておいてください。
また、私(Adam Grecko)はGAの専門家ではありません。主にデジタル解析のキャリアに基づいて、顧客から聞いたことや私が感じたことをまとめています。
この記事は、GA4がUAよりも良いか悪いか、あるいはAmplitudeがGA4よりも優れているかどうかを議論するものではありません。Amplitudeに寄せられる質問に対する回答を、共有しやすい形でお伝えするためのものです。
この記事はAmplitudeのユーザーを対象としていますが、Googleアナリティクスを使っている人であれば何らかのヒントを得られるはずです。また、日本でもGA終了と今後に関するウェビナーを開催する予定なので、ぜひ続報をお待ちください。
GoogleはなぜGA4に変更したのか?
近年、デジタル分析業界は多くの変化を遂げています。より多くの人がウェブサイトやモバイルアプリケーションを活用するようになり、セッションやページビューを中心的な焦点とする従来の「ウェブサイト分析」モデルが時代遅れになったためです。(セッション軸は常に必要ですが。)
ページ遷移が発生しないシングルページのアプリケーションや、複数の異なるデバイスを横断するマルチプラットフォーム型のユーザージャーニーによってデジタル体験がより複雑になるにつれ、多くの企業がイベントベースのデータ分析モデルに移行しています。
Googleアナリティクスは、もともとモバイルアプリやイベントベースのモデル向けには作られていませんでした。そこで、Googleは2014年に、モバイルアプリ向けでイベントベースのデータモデルを持つFirebase(ファイアベース)という企業を買収しました。
Firebaseの買収後、Googleはモバイルアプリの分析にFirebaseを活用し始めました。そして、モバイルアプリとイベントベースモデルの普及が進むにつれ、Firebaseを将来のプラットフォームとすることを決定したのです(最初はGA App + Webとして、現在はGA4として提供されています)。
GA4 に移行した方が良いのか?移行には何が必要なのか?
Googleは、クライアントに最新のプロダクトであるGA4への移行をすすめています。しかし、GA4への移行はスイッチを右から左に切り替えるような、簡単な作業ではありません。
GA4は従来のGoogleアナリティクスと異なるデータアーキテクチャを使用しています。そのため、ユニバーサル アナリティクスからGA4への移行は、まったく新しい分析ソリューションに移行するのと同じくらい大きな労力を必要とする可能性があるのです。
例えば、GAのe-コマース・トラッキングを使用している場合、移行には特別な手順が必要です。後方互換性の問題が発生する可能性もあります。
私が話したお客さまの中には「Googleアナリティクスにこだわる必要があるのか?他のベンダーも評価すべきなのでは?」と自問自答しているところもありました。
たしかに、大きな変革のタイミングで一歩下がり、組織が現在のテクノロジー投資からどれだけの価値を受けているかを評価するのは良いことです。私が話したお客さまの多くは、現在のGoogleアナリティクス(ユニバーサル アナリティクス)の実装は 「自動操縦」になっていると表現しています。
この場合の自動操縦とは「ずっと前からあって便利ではあるが、長い間更新されておらず、実用的な洞察を常に提供しているわけではない」という意味です。この現象は、過去のブログ記事(英語)で紹介しましたが、残念ながらテクノロジーでは非常によくあることなのです。
GA4はすぐに使える新しい機能(例:アウトバウンドリンク、検索語句、ダウンロードファイルなど)を追加する予定です。その他にも、GAを他のデジタル分析プロダクトと同等にするような、優れた新機能を多数実装しています。
そのため、GA4にアップグレードするだけでうまくいく組織も多いでしょう。しかし、私はこの機会を利用して、デジタル分析プログラムの現状とあるべき姿を評価し、GA4が目的にかなうプロダクトであるかどうかを判断することが重要だと考えています。
Amplitudeのユーザーの多くは当面の間、何らかの形でGoogleアナリティクスを使い続けると思いますが、当社の目標のひとつは「最終的にはAmplitudeが単一のソリューションとなり、Googleアナリティクスを使用する必要がないほど、プロダクトやマーケティングのユースケースを実現すること」です。(これに関するいくつかの素晴らしい新機能を、当社が2022年5月25~26日に開催するカンファレンス「Amplify(バーチャル参加は無料)」で発表します)。
Googleアナリティクスの過去データについてはどう考えるか?
多くの人が、ユニバーサル アナリティクスの終了を恐れています。
Googleが公表しているスケジュール(2023年7月1日から最低6カ月間はデータへのアクセスが可能だが、最終的なサポート終了日は2022年5月中旬現在未定)を考えると、多くの組織が「すぐに何かしなければ、前年比のデータがなくなってしまう」とパニックに陥っているのです。
私たちの業界では、前年比データを頼りにしてはいますが、実際に過去のデータを使っている組織はあまり見かけません。新しいデータ保持ポリシーを考えると、本当に過去のデータを大切にしている組織であれば、すでに分析データを社内のデータウェアハウスに送っているはずです。そうであれば、特定の終了日について慌てることはないだろうと思います。
しかし、履歴データの保持が組織にとって本当に重要であれば、安全のために2022年7月1日(ユニバーサル アナリティクスのデータ収集が停止される予定の1年前)までに最も重要なKPIをGA4インスタンスに追加することが有益でしょう(GAに加えてAmplitudeの無料GTMテンプレートを使用してAmplitudeにもデータを送信することができます)。
さまざまなベンダーが出す不確定要素を含んだスケジュールに振り回されるのではなく、将来のためにどのプラットフォームに投資するかを考えた方が良いと思います。 また、終了の発表にまつわるユーザーのネガティブな反応を踏まえると、Googleが最終的にユニバーサル アナリティクスの終了日を延長する可能性が高いような気もしています。
GA4の準備はできているのか?
私が話した人の多くは「GA4は、ユニバーサル アナリティクスが対応していたすべてのユースケースをカバーできない」といううわさを耳にしたようです。現に、GA4の欠点を説明するTwitterやLinkedIn(リンクトイン:世界最大級のビジネス特化型SNS)の投稿は簡単に見つけられます。
私と話した人の中には「(GA4を導入するには)まだ早い」と表現する人もいます。GA4はユニバーサル アナリティクスよりも優れた改良がなされているように見えますが、いくつかの懸念もあります。以下は、私の会話の中で出てきた内容です。
- GA4では、すぐに使える多くのレポートから、探索レポートインターフェースに依存するようになった。この新しいインターフェースは、後により強力なものになるかもしれないが、現時点ではこれまでのユニバーサル アナリティクスのユーザー(特に初心者)に違和感を与える。そのため、多くの再トレーニングが必要になる可能性がある
- GA4では、ディメンションとディメンションの文字数に制限があり、問題になる可能性がある。ユニバーサル アナリティクスのユーザーは、GA4で利用できる以上のディメンションを導入しているかもしれない。そのため、顧客に優先順位をつけさせるという点では良いが、大規模な実装を行った顧客は窮地に陥る可能性を含んでいる
- GA4 では、ディメンションのカーディナリティ(あるテーブルのカラムに含まれるバリエーション)によって、標準レポートと探索レポートで異なるメトリックの合計が表示される場合がある
- GA4はBigQuery(ビッグクエリ:Googleのクラウド側データベース)とのインテグレーションが進んでおり、パワーユーザーにとっては素晴らしいことだが、カジュアルなデータユーザーにとっては新しく、より高度なユーザーインターフェースを学ぶ必要があるかもしれない
- GA4のBigQueryへのデータエクスポートは1日あたり100万イベントまでとなり、これまで無料の分析機能を使用していた多くの企業はGoogleへの支払いを余儀なくされる
- GA4「無料」版のデータ保持は最大14カ月、つまり保存したいデータはBigQueryに保存する必要があり、長期間のレポート作成に探索レポートインターフェースを使用することができなくなる
- GA4は現在、サードパーティベンダーの統合がほとんどない
ヨーロッパにおけるGoogleのプライバシー問題は?
私が話した人々にとっては、Googleアナリティクスに関するネガティブな見出しがニュースになることも懸念のひとつです。特にヨーロッパでは、Google アナリティクスはそもそも合法なのか?という点で議論されることがあります。
これは、広告ネットワークや多国籍コングロマリット(複合企業)と密接に関係しているデジタル分析プロダクトにとって看過できない懸念です。その懸念は、自分ではコントロールできないランダムな法的裁定によって、デジタル資産に対する可視性が一瞬にして失われることにつながっています。
さらに、Googleアナリティクスには、プライバシー問題のリスクを高める可能性がある特定の問題があります。その一例が、Googleアナリティクスが匿名の訪問者を特定し、データを充実させるために使用する仕組み「Googleシグナル」です。しかしGoogleアナリティクスは、このGoogleシグナルによって、他のデジタル分析プロダクトでは実現できない2つのことを行えるのです。
- 広告ネットワークを活用し、ユーザー(匿名ユーザーを含む)のクロスデバイス追跡を行う
- 年齢、性別、広告への興味などのユーザー統計情報を追加する
Googleシグナルは、多くの人がGoogleプロダクト(ChromeやGmailなど)を何らかの形態で使用しており「広告のパーソナライズ」機能をオフにしていないことを利用して、この機能を実現しています。
Googleは巨大な広告ネットワークを持っているため、ユーザーの人口統計学的情報や関心事を収集し、匿名でGoogle アナリティクスと共有することができるのです。例えば、私の祖母がGmailを使用している場合、Googleアナリティクスは彼女のGoogleアカウントから彼女の人口統計学的情報と興味を知ることができます。
デジタルアナリストとしては、人口統計や興味関心の情報を追加で得られるのは嬉しいことですが、GoogleプロダクトのユーザーはGoogleの広告ネットワークが自分についてのこの情報を、Googleアナリティクスに入力していることに気づいていない可能性があります。
Googleアナリティクスの管理者はGoogleシグナルをオフにすることもできますが、ほとんどの組織では有効になっています。Googleアカウント内でAds Personalization(パーソナライズド広告)を無効にできることを知っているユーザーはごくわずかです。
また、Googleアナリティクスでは現在、ユーザーIDとデバイスIDのみを使用するオプションではなく、Googleシグナルも含める場合にのみ、ユーザーIDによるトラッキングを許可しています。
Googleシグナルは現在、GDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)の同意要件にすべて従っていれば問題なく使用できると見られています。しかし、GoogleシグナルはGDPRの多くの原則に反するため、EUがGoogleアナリティクスにGoogleシグナル機能の削除や、GDPRへの「オプトイン(参加)」を強制するシナリオもあり得るでしょう。そうなれば、Googleアナリティクスは現在の優位性を失うことになります。
Googleのビジネス全体にとって、アナリティクスはどれほど重要なのか?
Googleアナリティクスという強力(そしてほぼ無料で使える)なデジタル分析プロダクトを常に利用できる世界にいた、という人は多いでしょう。
Googleアナリティクスの前身は、組織がGoogleのデジタル広告キャンペーンのパフォーマンスを測定するための手段として使用していたUrchin(2012年3月28日に販売を終了したウェブ統計解析プログラム)でした。Googleはその頃から、企業がデジタル広告にもっとお金をかけるようになるには、データが重要であることを知っていたのです。
企業が今後10年間、どのデジタル分析プラットフォームを使用するかを検討する際、Googleにとって広告ビジネスは分析ビジネスよりもはるかに重要であることを認識しなければなりません。
もしデジタル広告がなくなったり、大幅に減少したりした場合(おそらくプライバシーの問題が原因で)GoogleはGoogleアナリティクスの無料バージョンに資金を提供し続けるでしょうか?
GAサーバーのホスティングやGAプロダクトのサポートにGoogleが多額の資金を費やすことは確かで、広告という金のなる木が無限の資金を生み出し続ける場合は問題ないでしょう。しかし、広告収入が枯渇したらどうでしょうか?
また、Googleアナリティクスが多くの法的問題を引き起こし、Googleの中核である広告ビジネスに打撃を与え始めたらどうなるでしょうか?
もしGoogleがアナリティクスプロダクトのせいで広告収入を失うことを恐れたら、アナリティクスプロダクトは必要なくなるかもしれません。Googleのプライバシーや訴訟の問題を考えると、アナリティクスプロダクトがGoogleにとって足かせとなるシナリオもあり得るでしょう。
私が話をしている企業の中には、広告と分析を主なビジネスモデルとしているベンダーに依存する危険性が、いつか自分たちの身に降りかかってくるのではないかと心配しているところもあるようです。
また、Googleはその規模の大きさから、おそらく多くのピュアプレイ分析ベンダーよりも多数のエンジニアをGoogleアナリティクスに抱えていると思われますが、Googleという巨大企業の中で分析プロダクトがいつか行方不明になってしまう可能性はあります。中には、機能リクエストやバグレポートが、最近はめったに対応されないと言う人もいました。数年前はそのようなことはなかったそうです。
分析を唯一の使命とするベンダーと仕事をする利点の1つは、彼らがプロダクトの開発と改良に高いモチベーションを持ち続けることです。
Googleのサポートやサービスの提供方法に変化はあるのか?
私が話を聞いたお客さまの中には、Googleからもっと直接的なサポートを受けたいと常々考えているという人もいました。従来、Googleアナリティクスの顧客は、Googleと直接やりとりすることはあまりなく、Googleの代理店やパートナーと連携してきました。
たしかに、Googleアナリティクスが熱心な代理店やコンサルタントの軍団を従えていることは間違いありませんが、問題が発生したときにベンダーと直接話をしたいと思うのは自然なことです。
GA4が新しいGoogleの直接サポートオプションをどこまでもたらすかという点に疑問を抱く人もいます。本原稿執筆時点でこの件について新しい情報はなく、GA4はこれまでと同じようにサポートされるものと思われます。
GA4はどのようにしてデータ品質とガバナンスを促進するのか?
現在Googleアナリティクスを利用しているユーザーの多くは、データタクソノミーを記載したGoogle Sheets(Google スプレッドシート)で実装を管理しています。
Amplitudeの顧客が当社のプロダクトに好感を持っている理由のひとつは、データガバナンスにどれだけ投資してきたかということです。彼らは、GA4にも同じ機能の一部を搭載してほしいと考えていると思います。
イベントベースの分析プラットフォームは、確かに顧客の行動を追跡・分析する上でより強力ですが、データ管理への投資もより必要です。データガバナンスのための強固なツールキットは必須であり、アナリティクスの実装を文書化したGoogle スプレッドシートだけでは十分ではありません。
優れた意思決定につながる高品質の洞察を可能にするためには、事象を計画、計測、検証、整理、変換し、長期的に観察する必要があります。優れたデータガバナンスツールがなければ、信頼できないデータや再計測のために導入が進まないという長期的なコストが高くなるためです。この「データの死のサイクル」は、ほとんどのアナリティクスの取り組みが失敗する理由です。
私たちの顧客は、エンジニアにかかる負担とデータプラットフォームのコストをともに抑えつつ、データ品質の向上を促進するために、GA4(または少なくともGA360)が最終的に以下の要素を提供することを期待しています。
- ビルトインされたイベント計測のプランニングシステム
- イベントの妥当性を確認するための可視性
- 開発者優先のエクスペリエンス(Jiraとのインテグレーション、コマンドライン、SDK、ブランチ)
- より堅牢なデータプロパティ変換型
ただし、GA4のデータガバナンス分野にGoogleがどの程度の投資を行うかはまだ不明です。
GA4はどんなデータおよびマーケティングインテグレーションを提供するのか?
現代の組織は、データウェアハウス、CDP、メールエンゲージメントとメッセージングプラットフォーム、広告ネットワーク、アトリビューションとロケーションインテリジェンスツール、A/Bテストプラットフォームなど、多くのツールを使用しています。
現在、GA4はBigQueryおよびSalesforce Marketing Cloud(Salesforceのマーケティングプラットフォーム)とインテグレーションされています。
それ以上は、バックエンドの開発や/API作業が必要です。スタックと統合し、単一の顧客行動プロファイル、顧客エンゲージメントとジャーニーの完全なビュー、さまざまなチャネルやツールにまたがるデータへの対応能力をチームに持たせたいという場合、GA4にはいくつかの制約があるかもしれません。
また、Snowflake(Snowflake社が提供するクラウドサービス)、Amazon S3(Amazon Simple Storage Service:データを格納・管理できるオブジェクトストレージサービス)、BigQueryなどのデータウェアハウスをデジタル分析ソリューションと連携して活用する組織も増えています。
現在、Googleアナリティクスは、すぐに使えるBigQueryに限定されており、他のデータウェアハウスとインテグレーションするためには、ユーザー側での開発が必要です。
最終的な感想
冒頭で述べたように、GA4ユニバーサル アナリティクスの終了とGA4に関しては、多くの疑問と不明な点があります。Amplitudeのユーザーも、他の多くの組織と同じようにこの影響を受けることになるでしょう。
今回の記事が、Googleアナリティクスを使用している現在のAmplitudeのユーザーであっても、同様の疑問をお持ちのGoogleアナリティクスのユーザーであっても、これらの疑問に答えるきっかけになればと思います。
どんな大きな技術変更にも、疑問や懸念はつきものです。Googleアナリティクスは非常に普及しているため、このような質問や懸念はしばしば拡大します。しかし私は、疑問の多くが、来年以降、Googleとその活発なユーザーコミュニティ(彼らはGAについて私よりも多くのことを知っています)によって、より良い回答が得られると確信しています。同時に、今回のように組織で使用されているすべての技術を継続的に再評価し、最善の道を決定することは重要だとも考えています。
今回のような話題についてもっと知りたい、あるいは質問したいという方は、2022年6月7日にGAに関する深い専門知識を持つ当社のパートナー(McGaw)と共にウェビナーに登壇する予定ですので、ぜひご参加ください。登録はこちらから。