プロダクト・レッド・グロース(PLG)とは? 急成長デジタル企業がこぞって採用する新戦略

Mallory Busch

Sr. Content Marketing Manager, Amplitude

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Posted on March 25, 2022

GTM(Go-to-Market)戦略のひとつである「PLG」が今、企業の新たなる成長戦略として注目されています。 本稿では、従来の「セールス主導型の成長戦略」とPLGとの違いから、PLGの指標、実際にPLGを導入している企業の事例などと併せて、PLGの基本について解説します。

プロダクト・レッド・グロース

プロダクト・レッド・グロース(Product-Led Growth:PLG)とは、ユーザーのアクイジション (獲得)からアクティベーション(活性化)、サティスファクション(満足)、リテンション (継続)、エクスパンション(拡張)までを“プロダクト主導”で推進するビジネス戦略です。

PLGでは、ユーザーに革新的でパーソナライズされたプロダクト体験を提供します。そのためにマーケティングチーム、セールスチーム、カスタマーサクセスチームなど、企業内のすべてのデジタル関連チームがプロダクトにフォーカスした活動をします。そして、この仕組みが顧客のロイヤリティとリテンションを高めることに直接的に貢献します。

プロダクト主導型でない企業(セールス主導型企業)では、主にセールスチームが収益を担い、カスタマーサクセスとセールスで顧客の離脱防止を受け持ちます。

しかし、プロダクト主導型企業では、プロダクト自体がロイヤリティとリテンションの源泉となります。プロダクトで得た体験がセールスの手を借りずにユーザーロイヤリティを生み出すため、ユーザーとの関係が時間とともに強化・複合化していくのです。

PLGの主なポイント

PLGを語る上で押さえておきたいポイントは下記の4つです。

  1. PLGは、最高のプロダクト体験を提供するためにビジネス全体のリソースを調整するGTM戦略のひとつである
  2. PLGを採用することで、企業はより低いコストで、スピーディーかつ効率的な規模の拡大を実現できる
  3. プロダクト主導型の企業q2になるための第一歩は、カスタマーバリュー、エンゲージメント、リテンションなど、持続的な成長を促す指標を軸に社内の連携を図ることである
  4. Atlassian、Calendly、Pinterestなどの企業は、PLGを活用して複合的な成功やカスタマーロイヤリティを促進している

各ポイントについて、以下で解説していきます。

プロダクト主導の成長とは、実際にはどのようなものなのか

PLGによる成長を実現するには、「どんな指標や戦術が持続的な成長につながるのか」について全社一丸となって考え直す必要があります。これは、企業がセールス、マーケティング、リテンションの方法を変革することを意味しています。

まずは企業やチームとして、プロダクトを中心にPLGの「仕組み」を構築し、チームの足並みを揃える必要があります。

例えば、プロダクト主導の成長を実現するひとつの方法として、ユーザーが最終的に購入する前に、プロダクトの価値を体験できる機会を提供できるでしょう。そうすることで、プロダクトそのものが、アウトバウンドセールスチームと同じセールス機能を果たすようになります。

また、PLGによる成長では、リソースをより柔軟に活用できます。マーケティングやセールスにばかり資金を投入するのではなく、プロダクトに投資できるのです。

最高のプロダクト体験を優先させることで、リピーターを増やすだけでなく、新規顧客開拓のためのパイプラインを構築できます。

PLGは他の成長モデルと比べてどこが違うのか?

PLGは、旧来の一般的な成長モデルとは異なります。これまではプロダクトの価値を顧客に納得してもらうために、セールスやマーケティング資料ばかりが使われてきました。

一方PLGでは、顧客にその価値を自ら発見してもらうことに重きを置いています。まずは購入前にプロダクトを使用してもらうのです。

一般的な企業は、以下の成長モデルの1つ、またはこれらを組み合わせた戦略を立てています。

  • セールス主導型(Sales-Led Growth:SLG)
  • マーケティング主導型(Marketing-Led Growth:MLG)
  • プロダクト主導型(Product-Led Growth:PLG)

この3つのモデルの違いは、社内の連携スタイルです。セールス主導型の企業は、営業部門を主な収益源としてサポートするように作られています。

社員教育からソフトウェアの購入、マーケティング手法に至るまで、「セールスチームがより多くの案件を獲得するために役立つか」という点について検討されます。

マーケティング主導の企業では、プロダクトの価値を顧客に納得してもらうこと、顧客のニーズに訴えることに重きを置いています。

したがって、マーケティングチームによる顧客への訴求やリード獲得活動をサポートすることを中心にビジネスが構成されているのです。セールスチームにも商談をまとめる役割はありますが、ユーザーを取り込むのはマーケティングチームの顧客調査や広告戦略です。プロダクトが似たり寄ったりで差別化が難しい競争環境では、マーケティング活動こそが顧客獲得のパイプラインとビジネスの成長に大きな違いをもたらします。

この2つのモデルでは、見込み客に対してプロダクトの価値を明示的に伝える必要があります。一方、プロダクト主導型の企業では、プロダクトの価値を理解してもらうことを優先します。

例えば、アウトバウンドセールスに多額の投資をする代わりに、トライアルやフリーミアム・サブスクリプションという形で、見込み客がすぐにプロダクトに触れられるようにします。ユーザーには購入前にプロダクトを使ってもらい、その良さを実感してもらうのです。つまり、セールスによる説得ではなくプロダクトそのものの価値でユーザーを獲得します。

PLGでは顧客獲得コスト(Custmer Acquisition Cost:CAC)をできるだけ下げることにも重点を置いています。セールス主導型では大規模な営業チームを雇い、コストをかけてセールストレーニングを行います。さらに、従来のマーケティング戦略には、大規模かつ継続的な資金投入が必要です。PLGではこれらの働きをプロダクト自体に担わせるため、結果としてCACを下げることができます。

しかしプロダクト主導型も、従来の営業やマーケティングの手法を完全に捨てるということではありません。結局のところ、販売を支援する営業チームや、需要を見極めるマーケティングチームが必要であることに変わりはないからです。

つまり、PLGにはセールス主導型とマーケティング主導型、両方の利点も取り入れられているのです。

プロダクト主導型の成長のメリット

PLGを採用する企業では、エンドユーザーに迅速かつ一貫した価値を提供する高品質のプロダクトを提供します。しかし、PLGの利点はそれだけではありません。

PLGには主に、下記3つの成長メリットがあります。

  • 企業価値(EV)の中央値が高い
    PLGのコンセプトを提唱した米ベンチャーキャピタルのOpenViewによると、「PLG企業の企業価値(Enterprise Value:EV)の中央値は、パブリックSaaSインデックス全体と比較して2倍高い」とのことです。これは、プロダクト主導型の企業が、エンドユーザーの問題を軽減するツールを設計しているためです。うまくいけば、ユーザーはそのプロダクトを使い続け、さらに他の人に紹介することもできます。
  • 加速する成長
    OpenViewは、PLG企業の成長速度が速いことも報告しています。PLG企業は年間経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)が1,000万ドルを達成した時点で、より速いスピードで拡大・スケールする傾向にあります。
  • 顧客獲得コスト(CAC)の低減
    PLG企業ではほとんどのリソースをプロダクトに注ぎ込むため、高額なマーケティングコストや販売コストに制限されることがありません。そのため顧客獲得コストに見合うリターンを得るまでの時間が短く、健全な成長パターンを維持できます。

プロダクト主導型の企業になるには

プロダクト主導型を本格的に採用することを決めた企業は、それぞれ独自の道を歩むことになります。

企業やプロダクトごとに業界、プロダクト、リソース、人材、成熟度などが異なるため、一律に推奨することは困難です。そのため、Amplitudeでは、当社エバンジェリストのようなPLGのエキスパートが開催するワークショップやウェビナーに参加することをお勧めしています。

では、続いてプロダクト主導型の基本的なステップを紹介します。

組織全体のアライメントを確保する

PLGの考え方を取り入れるには、経営層から社内の足並みを揃えることが必要です。各チームがバラバラの目標を掲げていては、プロダクト主導型の企業にはなれません。

ユーザーに対しては、リソースと時間を集中させた世界レベルのプロダクト体験を提供する必要があります。これは単に最高のプロダクトを作るということではなく、継続的な体験を軸にカスタマージャーニー全体をデザインするということです。つまりマーケティング、カスタマーサクセス、アナリストなど、デジタルに関わるすべてのチームが関与しなければ実現しません。PLGによる成長ができるか否かは、プロダクトチームだけの責任ではないのです。

プロダクトの「ノーススター」を決める

エンドユーザーを理解せずして、最高のプロダクトは生まれません。まずはプロダクトのノーススターを特定し、プロダクトが提供する顧客価値とビジネス価値の接点を明らかにします。ノーススターに焦点を合わせることで、プロダクトチームは単なる新機能を量産するだけにはならず、実践的なプロダクト改良の実現を目指せるのです。

ノーススターについてより理解を深めたい方は、プロダクトリーダーがノーススターメトリックについて知っておくべき7つのことを読んでみることをおすすめします。

「ノーススターを決める具体的な方法を知りたい」という方は、フレームワークを徹底的に解説したノーススター・プレイブックを無料ダウンロードしてみてください。

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行動分析による測定と改善

プロダクト主導による成長には、ユーザーの行動に基づいたデータによる意思決定が欠かせません行動分析では、プロダクトとユーザーの間で発生するすべての相互効果を追跡できます。カートの放棄や曲のスキップなど、デジタル上の行動やイベントから、ユーザーが何に価値を感じ、何に価値を感じないかを明らかにできるのです。

行動分析を基にすることで、ユーザージャーニーを改善し、プロダクトについてユーザーが実際に望む仕組みを知ることができます。これによって引き出された情報から、マーケティングチームやカスタマーサクセスチームは、特定のユーザーにメッセージを送ることもできます。

本当にプロダクト主導の成長を目指すのであれば「イベントベースの分析プラットフォームへの投資は不可欠である」と言えるでしょう。

プロダクト主導型の成長指標

セールス主導型やマーケティング主導型の企業では、セールスやマーケティングを中心とした、標準的な指標で戦略を立てます。一方、プロダクト主導型の企業はこれらの指標を通常とは異なる目的で使用します。

ユーザーの獲得(アクイジション)

どのような成長モデルにおいても、どれだけの見込み客がプロダクトに出会い、ユーザーへと転換したかをモニタリングすることは非常に重要です。ファネルの獲得フェーズでは、サインアップやクオリファイド(適格)リードなどの指標を追跡することで、リードジェネレーションの機会や課題を特定することができます。

プロダクト主導型企業における究極の目標は、CACを限りなくゼロに近づけることであり、CACの低減はPLGモデルの中心的な要素のひとつです。セールス・マーケティング主導型の企業も、CACを最小限に抑えるために多大な努力を払いますが、プロダクト主導型の企業はその特徴からより大きな成功を収めることができます。

タイム・トゥー・バリュー(TTV)

仮に、無料トライアルで100万人の見込み客を得たとしても、そのうちの10人しか有料会員にならなかったとしたら、あまり効率が良いとは言えません。

PLGでは、ユーザーがプロダクトの価値をできるだけ早く発見できるような体験を作り出すことに重点を置いています。

契約してからプロダクトの有用性を発見するまでの時間をTTV(Time-to-Value)といいます。TTVは、ユーザーが重要なアクティベーション行為に到達するまでの平均的な長さをプロダクトの実利用データから算出したものです。このTTVを短くすることも、プロダクト主導型の企業にとって大きな目標です。

ユーザーの維持(リテンション)

セールスやマーケティング主導でのユーザーアプローチは、時にリテンションよりもアクイジションを優先させます。マーケティングキャンペーンの成功は創出されたリードで評価され、営業チームの成功は成約率で計算されます。そのため、新規ユーザーの獲得と既存ユーザーの満足度に目が向きがちです。

プロダクト主導型企業では、ユーザーが満足してプロダクトを使い続けることを大切にします。そのため、チームや部署を超えたリテンションの取り組みが特に重要視されるのです。

たとえフリーミアムユーザーをすべて有料にしたとしても、定着しなければ意味がありません。パワーユーザーの行動を監視して傾向をつかむことで他ユーザーのリテンションを高めたり、解約を追跡することで改善すべき点を見つけることができます。

プロダクト主導型ビジネスの例

業態がB2B(法人向け)かB2C(消費者向け)かを問わず、プロダクト主導型の成長戦略を採用し、大きな成功を収めている企業は数多く存在します。プロダクト主導型の導入方法は各企業によって異なりますが、共通する特徴があります。

プロダクト主導型の企業の例を以下で紹介します。

Atlassian(アトラシアン)

ソフトウェア開発大手のAtlassianは、プロダクト主導の「ボトムアップ型」成長モデルを完成させました。本稿執筆時点(2022年3月25日)で、同社の評価額は1000億米ドルを超えています。それにもかかわらず、従来のセールス・マーケティング戦略への投資は、この規模の企業としてはごくわずかな金額にとどまっているのです。

Atlassianは成功し続けるためにPLG戦術に傾注しています。同社は、有益なリソースと透明性のある価格プランでユーザーの購買行動をシンプルにすることを信条としています。購買における摩擦を最小限に抑えることで、継続使用における価値を素早く見出すことができるようになるのです。

Calendly(カレンドリー)

2013年に設立されたCalendlyは、コラボレーションを円滑にするスケジュール管理プロダクトとして注目されています。Calendlyが成功を収め続けているのは、「共通の課題を効果的に解決できる、使いやすいプロダクトを作る」というPLGの中核的な信条があるからです。

また、Calendlyはこのツールを知らない招待客に無料で試用してもらうという、リードジェネレーションの戦術を発見しました。

Pinterest(ピンタレスト)

UserVoiceのインタビューで、ピンタレストのエンジニアリングマネジャーであるJohn Egan(ジョン・イーガン)は「グロースチームが最も効果的であるためには、他のチームからサポートを受けることなく、自分たちで好きな機能を実装できるフルスタックチームである必要がある」と述べています。つまり、自社の成功の多くは社内のコラボレーションと経営陣の連携によるものだ、と考えているのです。

この自律性を生み出すには、PLGマインドセットを身につけたエグゼクティブリーダーが欠かせません。

PLG戦略への着手

プロダクト主導型の成長モデルへの移行を目指す企業は「プロダクトを中心としたビジネスインフラの再構築」という難題に直面しています。

その第一歩を踏み出すために必要なのが、ノーススター・フレームワークのような戦略、プロダクトのリテンションをマスターする方法、プロダクト内にすでに存在する好成長ループ(フライホイール ガイド日本語版 )を特定する方法などです。

もちろん、プロダクト主導型の成長モデルを実践してみたい方は、Amplitudeのスタータープランを試してみてくだい。

  • 安全性の高いデータの管理
  • ユーザーの行動追跡
  • マーケティングメッセージのパーソナライズ
  • プロダクト体験のA/Bテスト
  • ユーザーエクスペリエンス全般の向上

Amplitudeのスタータープランでは、上記の機能を無償で利用できます。これも、PLGのひとつの形です!

Mallory Busch

Mallory Busch formerly ran the Amplitude blog, frequently named a best blog for product managers. She also created AmpliTour, the live workshop for beginners to product analytics and 6 Clicks, the Amplitude video series. She produced the Flywheels Playbook, wrote The Product Report 2021 and produced The Product Report 2022. A former developer and journalist, Mallory's written work and coding projects have been published by TIME, Chicago Tribune, and The Texas Tribune. She graduated from Northwestern University.

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