顧客エンゲージメント・モデルにおける3つの型とは

Sandhya Hegde

VP of Marketing

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Posted on June 6, 2022

本記事では、プロダクトの開発と成長を加速させるプロダクト・レッド・グロース(PLG、Product-Led Growth)とその実行に対する最新のアプローチを紹介します。

customer engagement model

顧客エンゲージメント・モデルを定義する3つの型

すべてのプロダクトは「アテンション型/トランザクション型/プロダクティビティ型」の3つの型のうち、どれか1つにあてはまります。「プロダクトや企業の成長に必要な型がこの3つしかない」というと首をかしげる人もいるかもしれません。

しかしこれは事実であり、正しい型に集中することは目覚ましいグロースの実現に不可欠と言えます。

顧客エンゲージメント・モデル例

customer-engagement-model

アテンション型

アテンション型は、エンドユーザーがプラットフォーム上で過ごす時間を最大化しようとするものです。

エンドユーザーがプラットフォーム上で長い時間を過ごせば、プロダクトはその見返りとして、価値(エンターテインメント・情報・刺激・安らぎなど)を提供します。

この価値が高く、簡単に享受できるほど、顧客のプロダクト滞在時間は長くなります。メディアやゲーム、広告業界に属する企業が典型的な「アテンション型」にあてはまる傾向にあります。

トランザクション型

トランザクション型では、消費者が自分の意思決定に自信を持って購買し、その体験によって何度も購買を繰り返すことを目標とします。

トランザクション型プロダクトの典型例は、eコマース・プラットフォームです。

トランザクション型のプロダクトで最も重要なのは、消費者が自分の判断に自信を持って購買を実行し、ユーザー体験を通じて自然と何度も購買を繰り返すようになることです。

その半面、トランザクション型ではプロダクト上でユーザーが過ごす時間の長さはそれほど重要ではありません。ユーザーが商品の閲覧や比較を延々と続けていると、閲覧ページ数や滞在時間といった「見せかけ」の指標は良好に見えるかもしれません。

しかし、購買につながっていなければ、閲覧ページ数も滞在時間も、実際のビジネス価値は生んでいないことになります。

プロダクティビティ型

プロダクティビティ型は、そのプロダクトによってユーザーがいかに短い時間/少ない回数で既存のタスクやワークフローを完了できるかを指標とする型です。

この型では、ユーザーのナビゲーションを成功させるために、常に迅速にプロダクトを最適化する必要があります。

プロダクティビティ型は、B2Bソフトウェアに多く見られます。

過去、Amplitudeは何十社もの大企業とワークショップを行い、プロダクトマネジメントプロセスを改善する手助けをしてきました。このフレームワークをプロダクト・マネジャーに共有すると「3つの型すべてがビジネスにとって重要なのではないか」とよく言われます。

たしかに、ビジネスには3つの型すべてが大事なのは事実です。しかし、その3つの中で自分たちが勝てる型を選択することこそが「戦略」であり、どこで勝負するのかを決断する必要があります。

例えば、あなたの会社がeコマース・プラットフォームを扱っているとしましょう。エンドユーザーが商品を閲覧する時間を増やすような機能を搭載したとしても、実際には全く意味がありません。むしろ、購入件数を減らしてしまう可能性すらあります。

顧客エンゲージメント・モデルは、主要な指標、つまりプロダクトの「ノーススター」と完全に一致させる必要があるのです。

顧客エンゲージメント・モデルをプロダクトのノーススターに一致させる

顧客エンゲージメント・モデルがノーススターに正しく紐づいていれば、ビジネスの成功率を向上させることができます。

以下は、顧客エンゲージメントモデルと代表企業例、考えられるノーススターの例です。(※あくまで一例です。)

ノーススターとは、顧客が享受する価値と企業が得る収益を両立する、企業にとって唯一の目標です。ノーススターについて理解を深めたい場合には、「ノーススターメトリックの求め方」を読んでみてください。

Product-Led Growth ウェビナーシリーズ「ノーススターを定義する」では、ノーススターの求め方をイチから説明しています。当社のエバンジェリストが具体例も交えながら詳しく解説しているので、こちらもぜひご覧ください!

PLGウェビナーシリーズ「ノーススーターを定義する」を見てみる

engagement model and NorthStars

同じ型でも、独自のプロダクトモデルを反映した、全く異なるノーススターを各社が持っていることがわかります。

顧客エンゲージメントとノーススター・メトリクスの例

たとえば、FacebookとNetflixはともにアテンション型のプロダクトを展開していますが、そのビジネスモデルは異なります。

Facebookの収益はユーザーのフィードへのエンゲージメント量に比例し、その結果として広告収益が発生します。一方、Netflixは、毎月のユーザー・リテンションを測定しています。

企業のノーススターと型は、プロダクトとユーザーの間のインタラクションや、それによって生じる価値(顧客価値交換)に関する基本的な概念です。

つまり、ノーススターは、プロダクトが追跡すべきKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)よりもはるかに多くのことを定義していると言えます。

自社の型におけるプロダクトと顧客価値交換の設計

現代のプロダクトマネジメント理論は、プロダクトを「顧客と企業間の価値交換の媒体」と定義しています。

プロダクトは、エンターテインメント・情報・便利さ・効率のよさ・スキルの習得・ステータス・自己表現などの価値を顧客に提供し、顧客はその見返りとして企業に対価を支払います。

近年、ビジネスモデルの革新とデジタルトランスフォーメーションにより、顧客がこの対価を提供する方法が多様化しています。

value exchange model

つまり、顧客は、金銭を1回払いや定期払いなどの方法で支払うだけでなく、自分の時間を企業に差し出すことで対価を引き渡すことも可能です。具体的には、広告に反応したり、プロダクトを他者に紹介したり、自分の好みに関する情報を何らかの形で提供することなどが例として挙げられます。

顧客エンゲージメント・ストラテジーの価値交換

アテンション型における顧客価値の創出

「エンターテインメント」「情報」「自己表現」は、アテンション型を行うプロダクトが顧客に提供できる3大価値です。

優れたアテンションプロダクトは、無限のコンテンツの選択肢を用意し、顧客エンゲージメントデータを利用してユーザー体験をパーソナライズします。その例としてあげられるのが、Twitter、ソーシャルニュースサイトのReddit、画像共有コミュニティのIMGURなどです。

トランザクション型における顧客価値の創造

トランザクション型では、顧客に対していくつかの異なる価値を提供できます。実用性を提供する企業が重点を置いているのは、価格帯と配送です。(Amazonの初期のプロダクト・マネジャーであったEugene Wei(ユージン・ウェイ)は、顧客がいかに送料を気にするかについて話しています。)

一方、ステータス感やカスタム性を価値として提供する企業は、顧客が「自分に向けて厳選された商品を薦められている」と受け取るような仕掛けをプロダクトに組み込むことを重視しています。顧客にとっては、取引にかかるコストよりも、商品購入の意思決定のしやすさの方が重要だからです。

これが、サブスクリプション方式のラグジュアリーeコマース最大の推進力となっています。その例として挙げられるのが、オンラインフィットネスクラスを提供するPeloton、ファッション関連のレンタルeコマースのRent The Runway、衣服のサブスクリプションボックスを提供するTrunk Clubなどの企業です。

プロダクティビティ型における顧客価値の創造

ユーザーにプロダクティビティを提供する企業は、使いやすさ(ユーティリティ)、効率のよさ(時間の節約)、特定のタスクに対するプロダクトの熟練度を顧客に与えることに重点を置いています。つまり、プロダクトの便利さや使いやすさに焦点を当てているのがプロダクティビティ型です。

プロダクティビティを追求するプロダクトは、導入の壁を乗り越えるための欲求を生み出し、インターフェースを習得しやすくし、ユーザーが投資を続けるよう促す必要があります。

クラウドストレージのDropboxやマネジメントプラットフォームのAsanaなどの企業がその例です。

 

記事前半にて、プロダクトにおけるユーザーエンゲージメントについて、下記3つのポイントついて解説しました。

  • 顧客エンゲージメント・モデルには3つの型があること
  • 型に沿ったノーススター・メトリックを測定することの重要性
  • それぞれの型が生み出すプロダクトとユーザーの価値交換の種類

次に、この3つのアイデアを組み合わせたサイクルによって、ユーザーの成長を体系的に促進する方法を説明します。

魅力的なプロダクトを作るためのテンプレート

すべての魅力的なプロダクトには、ユーザーに対する「最初のセッションで生み出された価値を最大化し、定期的な利用を促すようなインタラクション・ループ」が必要です。

複数回の利用を期待していないプロダクト(例えば住宅ローンプラットフォームなど)は、一般的にこのインタラクション・ループを必要としません。

顧客エンゲージメント・サイクルは、顧客がプロダクトを定期的にどのように利用するか、何がきっかけで利用するのかを示す、相互作用フレームワークです。

以下は、シンプルなエンゲージメント・ループのフレームワークです。下記4つの設問に答えることで、自分のプロダクトをテストしてみてください。

  • 興味を持ってくれている顧客を「アハ」体験へと導くために、自社のプロダクトは何をしているのか?
  • 何が顧客に繰り返しの利用を促しているのか?
  • 顧客は何に投資しているか?また、それを活用することで顧客価値交換をより意義のあるものにできているか?
  • 顧客にレビューや紹介を依頼するタイミングは適切か?

Product engagement cycle

まず、いくつかの定義をしておきましょう。

プロダクトの新しいユーザーは、上図①「好奇心・興味」の時点で参入してきます。広告を見た、友人に紹介された、検索で見つけた、のいずれかです。

この時点でのプロダクト唯一の仕事は、彼らを「②アハ体験/アハモーメント」に導き、長期的な顧客維持を可能にすることです。アハ・モーメントに到達すれば、新規ユーザーはそのプロダクトをアクティベートします。

その後は「インタラクション(③価値交換とその④トリガー)」のサイクルを繰り返しながら、顧客をひきつけていく必要があります。

ユーザーが十分にプロダクトに投資した後、「ステータス」としてユーザーにインセンティブを与え、インセンティブ付きの紹介やソーシャルメディアを通じて、将来の新しい顧客があなたのプロダクトに興味を持つようにできるのです。

エンゲージメント・ループを促進するアクションを設定したら、プロダクト・マネジャーとグロース・マネジャーは、下記4点を達成するためにユーザー・インターフェースとコミュニケーションを設計する必要があります。

  1. まずは、主要な価値を提供するためのあらゆる障壁を取り除きます。ユーザー・インターフェースを合理化し、アハ・モーメントを簡単に実現できるようにします。顧客が迷うことなく、必要最小限のステップでその瞬間に到達できることが重要です。
  2. 次に、顧客の行動に対するスピーディーなフィードバックを行い、顧客とのインタラクションを肯定します。UX(ユーザー・エクスペリエンス)のさりげない合図で何が起こったのかを明確に把握し、それを自社の価値とするのです。
  3. そして、顧客のプロダクトへの利用意欲を高めるために、顧客にとってのベネフィットを創出します。投資行動を促すために、ランダムな報酬を提供するなどがその例です(たとえば、Asanaのランダムな「お祝いクリーチャー」など)。
  4. さらに、顧客が投資を開始した後に、紹介やレビューなどを促します。促すタイミングは、レビューや紹介のコンバージョン率だけでなく、得られる反応の質にも大きな違いをもたらします。

顧客エンゲージメント・モデルを定義し、実行するにはさまざまな方法があります。今日紹介したのはほんの一例にすぎません。

しかし、これらのアプローチをとっている企業は、魅力的なプロダクトを作ることについて大きな成功を収めています。最終的に、プロダクトリーダーが目指すべきは、アプリケーションのすべての機能とインタラクションにおいて、思想と目的が極めて明確であることです。プロダクトを構成するあらゆる要素は、全てノーススターに向かわなければならないのです。

今回のフレームワークがチームの目標を設定し、成長を加速させるために必要なプロダクトモデルの作成に役立てば幸いです。

今後は、世界の主要なテクノロジー企業の例をあげながら、3つの型のそれぞれ異なるエンゲージメントループをより深く掘り下げていくので、楽しみにお待ちください。

まずは、自社がどの型にあてはまるかを知りたい場合には、ノーススター・フレームワークを使って型を特定してみましょう。Product-Led Growth ウェビナーシリーズ「ノーススターを定義する」では、ノーススターの求め方をイチから説明しています。当社のエバンジェリストが具体例も交えながら詳しく解説しているので、こちらもぜひご覧ください!

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Sandhya Hegde

Sandhya Hegde is the VP of Marketing at Amplitude, driving our strategy to help companies around the world build better products and win. A graduate from IIT Bombay and Stanford GSB, she is passionate about all things technology and business. Having been a startup founder, VC investor at Sequoia Capital, Khosla Ventures, as well as a product leader—she is an expert on how companies can craft product-led strategies for innovative disruption.

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