プロダクト・レッド・グロース(Product-Led Growth、PLG)とは、顧客の獲得、エンゲージメント、リテンション、売上拡大の主要な原動力としてプロダクトを中心に据えるビジネスモデルです。PLGビジネスでは、有料顧客を獲得するためにマーケティングやセールスに依存するのではなく、ユーザーにとって優れたプロダクト体験を生み出すことを重視します。
PLG戦略を考える道筋を示した無料のPLGワークシートを用意しました。このシートを使って、自社のPLG戦略を考えてみましょう。(無料ダウンロード)
多くのブランドが、消費者にプロダクトへのアクセスを与える前に、プロダクトに価値があることを示そうとします。無料トライアルやフリーミアムプランを通じてより多くの人にプロダクトにアクセスしてもらうことで、ユーザーはすぐに価値を感じることができます。これは、プロダクト自体が価値を語るようになるとも言えるでしょう。これこそ、PLGビジネスの核となる要素です。
PLGでは、営業やマーケティングの力でまだ見ぬ価値をユーザーに納得してもらうのではなく、プロダクト体験を向上させることに重きを置きます。
PLGによって可能となるのが、下記の4点です。
- コンバージョンの増加:OpenViewによると、Product Qualified Leads(PQL)(無料プランやトライアルを利用中の見込み客のこと)は、全体のコンバージョン率(PQL、MQL、SQLの総合)と比較して5倍高いコンバージョン率を獲得しているとのことです。
- グロースの加速:ベンチャーキャピタルのOpenViewは、PLG企業が年間経常収益(ARR)1,000万ドルに達すると、同業他社よりも速い速度でスケールする傾向があることも報告しています。
- 顧客獲得コスト(CAC)の低減:プロダクトが自ら売れるようになると、グロースのために営業チームを拡大したり、マーケティング予算を増やしたりする必要がなくなります。プロダクトへの投資が、継続的なコンバージョン率の向上につながります。
- 顧客ロイヤルティの向上:PLGによるグロースは、顧客との強い結びつきを基盤としています。プロダクトの開発や改良は、顧客とのエンゲージメントデータやフィードバックをもとに実施されます。顧客のロイヤルティはより強固なものとなり、フィードバック→開発・改良のプロセスは人手を介さずにほぼ自動的に行われます。ビジネスを成長させるためのコストがかからず、しかも複合的に作用するのです。
PLG企業は、マーケティングやセールスチームを完全に排除しているわけではありません。
PLGでは、フリーミアムでの利用から有償転換へとスケールアップするために、営業チームはよりパーソナライズされたタッチが必要な拡張案件に注力します。(エンタープライズ案件など)
また、マーケティングは、プロダクトの存在に気づいてもらうための啓蒙活動に取り組みます。そして、プロダクトの価値によってリードを取得することで、従来の営業・マーケティングプロセスの多くが自動化されます。
ここまでで、PLGに関する下記3点がわかったと言えます。
エンドユーザーは積極的にプロダクトを探し、発見し、利用したい
- ユーザーはニーズを持っており、プロダクトはそのニーズを満たすものです。ユーザーは、Google検索やApp Storeでニーズを満たしてくれるプロダクトを常に探しています。そのため、マーケティングチームは、有料広告やSEOコンテンツなどの認知度向上活動を推進することが重要です。
ユーザーは、探していたプロダクトを見つけると、すぐに試してみたくなる
- 無料トライアルやフリーミアム体験を提供することで、エンドユーザーは商談によって利用の開始が遅くなるのを避けられます。
- エンドユーザーはプロダクトについて初めて聞いてから、数時間以内にそのプロダクトのアクティブユーザーになることができます。
Product Qualified Lead(PQL)は、有償のチャンスに変換しやすい
- 一度プロダクトの価値を体験したユーザーは、有償版へのアップグレードや全社的なライセンス拡大など、利用を拡大するための社内支持者となる可能性が高くなります。
- 社内支持者がいると、特に人間的なタッチが求められる大規模の案件の場合、営業チームは利用拡大の取引を成立させるために働きかけやすくなります。
- また、営業チームにとっても、コールドコールや無数の連絡によって時間を浪費するよりも、コンバージョンする可能性の高い案件、つまり企業の内部にすでに支持者がいる案件に集中する方がはるかに効率的です。
このように、PLG戦略によってすべてのチームが利益を得ることができます。さらに、エンドユーザーのカスタマージャーニーは、より確かな、拡張性の高いものになります。
PLGがもたらすメリットはすでに明記しましたが、実際はどうなるのでしょうか。5つのダイヤグラムを使って、自社のビジネスでPLGがどのように機能するかを可視化してみましょう。
注目すべきポイント
- PLGモデルを採用することで、短期間で収益が上がり、複合的なグロースが可能となる。
- PLGのグロースは周期的で、優れたプロダクト体験、口コミ、検索による発見、継続的な使用によってグロースが促進される。
- PLGでは、営業チームが販売サイクルの長い大規模な企業に対し、集中的にコミットできるようになる。また、中小規模の顧客に対しては、カスタマージャーニーを自動化する。そのため、営業チームは数百万ドル規模の案件に集中し、細やかな対応ができるようになる。
また、「プロダクト・レッド・グロース(PLG)とは? 急成長デジタル企業がこぞって採用する新戦略」では、PLGがどんなものなのかをより丁寧に解説しています。
PLGについて理解を深めたい方は、この記事もあわせて読んでみてください。
ダイヤグラム1: PLGとは、より短期間でより良い成果を得ること
セールス・レッド・グロース(営業主導の成長モデル、Sales-Leg Growth 以下SLG)には、営業チームの編成、営業資料の作成、リードの選定など、多くの先行投資が必要です。そして、初期投資を行った後にリターンを得るまで、時間がかかってしまいます。
Amplitudeのプロダクト・エバンジェリストのJohn Cutler が作成した図1は、投資と(その投資から時間をかけて得られる)価値のトレードオフを示しています。PLGでもSLGでも投資は必ずしなければなりませんが、PLGはSLGよりも結果を早く出すことが可能です。
PLGを実践するにはプロダクトの活性化、エンゲージメント、ロイヤリティをいかに高めるかを考えなければいけません。しかし、プロダクト改善のために費やす時間の中で、同時に顧客獲得という利益を得ることができるのです。
一方、SLGでは時間がかかってしまいます。SLGで既存顧客にプロダクトをさらに活発に使ってもらうようにするためにかかる時間と、PLGで新規ユーザーを獲得してロイヤルユーザーに育成するまでにかかる時間は、ほぼ同じくらいかもしれません。

PLGモデルでは、営業チームが通常行う作業を、フリーミアムや無料トライアルを通じてプロダクト自体が行っていることになります。プロダクトの一部を無償で提供することで、顧客が実体験を通してプロダクトを好きになってもらうのが狙いです。
無料またはフリーミアムプランを設定することは、新規ユーザーをアクティベートするための初期投資を最小限で済ませられるというメリットもあります。ユーザーがプロダクトを使い始めると、すぐにプロダクトの価値を実感することができるからです。ユーザーを獲得した後は、関係を維持し、ロイヤリティを高めるためにプロダクトの改良に投資し続けることが大切です。
たとえ、プロダクトの一部の改良といった小さな投資でも、ユーザーの体験がすぐに改善されるため、すぐに見返りを得ることができるのがPLGの特徴です。また、SLGよりもPLGの方が頻繁に投資や改良を行えるようになります。
ダイヤグラム2:PLGの成長を実現するB2B SaaSのカスタマージャーニー
PLGの仕組みを理解するために、典型的なB2B SaaSのカスタマージャーニーを検証することから始めましょう。
まず、ユーザーが無料プランにサインアップします。最初は単独で使用しますが、プロダクトを使えば使うほど、普段のワークフローに作業を統合したくなります。

プロダクトをワークフローに統合するほど、作業は快適になり、プロダクトに依存するようになります。そうなると、同僚と共有して共同作業(コラボレーション)する可能性が高まります。
例えば、デザインツールCanvaのユーザーを考えてみましょう。あるユーザーがソーシャルメディアキャンペーン用のデザインを作成した後にチーム内で共有し、「フィードバックがあればCanva上で直接編集してください」とお願いするとします。そのユーザーは同僚をCanvaに招待し、同僚たちもCanvaを使い始めます。
同僚たちがCanvaを使うことにより、だんだんと、より重要な仕事がプロダクトの中で行われるようになります。利用が拡大するにつれ、タスクを遂行するために多くのオプションやアクセスが必要となってくるため、有償化を考え始めます。
このように、PLGにおける顧客とプロダクトの関係は、周期的かつ複合的なものです。
数百万ドルの取引と数年にわたる販売サイクルを確立しているSaaS企業にも、PLGには大きな利点があります。
- 顧客リテンションの向上:社員がプロダクトを使っていなければ、数百万ドルの契約は維持されません。そのため、PLGはユーザーが有料顧客となった後にこそ、グロースを促進し続けるのです。リテンションなくてはPLGモデルが成り立たないとも言えます。
- 営業を自動化:営業プロセスで手をかける必要のない中小企業や中堅企業の顧客との関係を自動化できます。
- 投資効果の明確化:プロダクトをアクティブに利用する無料ユーザーがいれば、投資の効果を明確にできるので、プロダクトへの投資を継続しやすくなります。
B2B向けソフトウェアを提供するAttlasianは、B2B SaaS業界のPLGをハックしました。PLGの暗号を解読したと言ってもよいかもしれません。Attlasianのプロダクトでは最初の10ユーザーは無料で利用できるのですが、この要素が顧客獲得に大きく貢献しています。
そして、Attlasianでは、無料ユーザが有料ユーザーになりたければ、営業チームに連絡することなく自分たちで有料プランに移行できます。
Attlasianの前社長であるJay Simons氏はチャットサポートを提供する Intercom に、「 12 万人の既存顧客がいて、四半期で 5,000 人の新規顧客を追加したいとします。その過程ですべての顧客に接触しなければならないとすると、この数字の達成は非常に難しいと思います。」と語っています。
一方で、複雑な問いや使用事例を持つ企業顧客に対しては、エキスパートによる対応が求められます。そのような顧客から契約してもらうには、営業チームがサポートしなければなりません。
ダイヤグラム3:Amplitudeの成長モデル
PLGにおけるカスタマージャーニーを理解するため、Amplitude AnalyticsのPLGを例にとって見てみましょう。
Amplitude Analyticsはイベントベースの分析プラットフォームです。エンドユーザーがプロダクトをどのように使用しているかを追跡するには、ウェブサイトやアプリでいくつかのイベントを計測可能な状態にする必要があります。(GoogleタグマネージャーやShopifyによるインテグレーションを使うと簡単です。)

この図は、2つの重要なサイクルを表現しています。左側のサイクルは、口コミによる拡大。右側は、ユーザーの継続的な使用による拡大です。この2つは同時に起こります。
まず、Amplitudeの無料スタータープランをあるユーザーが開始します。
Amplitudeの無料ユーザーは、Amplitude Analyticsを使用して自社プロダクト内のユーザー行動を理解し続けると、新しいインサイトを同僚と共有したくなります。ユーザーが同僚の好奇心を刺激し、彼らもAmplitudeを使用するように促します。
Amplitudeを使い続けると、プロダクト改良のインサイトが得られるので、インサイトをもとにプロダクトの開発・改良を行います。そして、そのアップデートをリリースし、さらにそのアップデートされた機能の使用状況をAmplitudeで計測し、パフォーマンスを追跡します。
これが、プロダクトをより良くするためさらなるインサイトにつながる、複合的な価値交換(Amplitudeというプロダクトの価値を受け取ること)だと言えます。
Amplitudeの無料ユーザーがより多くのイベントを計測し、そこから生まれるインサイトを共有するようになると、さらに多くの同僚、部署全体が、セルフサービスのプロダクト分析にAmplitudeを利用するようになります。
有料プランでは、パーソナライズのためのAmplitude AudienceやA/BテストのためのAmplitude Experimentなどのプロダクトや追加機能を利用できるようになります。無料ユーザーはプロダクトをさらに進化させるため、Amplitudeプランのアップグレードを検討するようになります。
ダイヤグラム4:PLGによって循環するグロース
PLGモデルは、B2BやB2Cを問わず、ほとんどのビジネスに当てはまる「連続した5つのループ」に表すことができます。

まず、誰かが口コミや何らかのマーケティング手段であるプロダクトに興味を持ち、無料ユーザーとなることからループは始まります。
そして、その人がプロダクトを使っているうちに、プロダクトの価値を知り(プロダクトの価値を感じる瞬間を「アハ・モーメント」と呼んでいます)、有料プランに移行します。
このようなユーザーは、プロダクトを何度も利用し、エンゲージメントを高めるきっかけを作ることで維持されます。
そして、ユーザーのプロダクトへのエンゲージメントが深まるにつれて、プロダクトを他の人と共有するようになります。多くの場合、プロダクトの中で何かを生み出すと、同僚や友人と共有したいと思うようになります。
共有することで、さらに多くの人がプロダクトに興味を持ち、このサイクルが強化されます。
ダイヤグラム5:Spotifyの仮説PLGモデル
音楽ストリーミングのSpotifyは人気のあるB2Cプロダクトで、素晴らしいプロダクト体験をユーザーに提供しています。グロース・サイクルをさらに具体的に説明するため、Spotifyを例に取ってみましょう。
(※下記の図および説明はAmplitudeによる仮説であり、Spotifyが公式に発表しているものではありません)

SpotifyのようなB2Cブランドは、PLGのこれらのステージがどのように展開されるか、仮定してみましょう。
- 興味・関心:マーケティングは人気歌手を宣伝する広告を打つなどして、興味や好奇心をかき立てます。ユーザーは、無料のSpotifyアカウントを作ります。無料アカウントは機能の一部が制限されており、ストリーミング中に広告が流れます。【注意点】PLGはプロダクトが重要な要素ですが、マーケティングが存在しないわけではありません。エンゲージメント、シェア、サブスクリプションを促進する主なドライバーがプロダクト自体となりますが、広告などのマーケティング戦術もユーザーに発見してもらうために役立ちます。
- アハ!モーメント:Spotifyを使い始めたユーザーは、他のユーザーが作成したプレイリストやパーソナライズされた選曲に触れ、プロダクト独自の価値を発見します。
- 価値交換:無料ユーザーはSpotifyに十分な価値を見出し、定期的なリスナーになります。広告が邪魔に思えてくるため、サブスクリプションを購入して有料ユーザーとなります。
- トリガー:Spotifyは、おすすめの音楽を提案し、ユーザーを惹きつけます。(トリガー:ユーザーを惹きつけるための仕組み)この時点で、ユーザーはマーケティングと一切関わる必要がなくなります。コミュニケーションはすべてプロダクトの中で完結します。
- 共有・口コミ:Spotifyのユーザーは、プレイリストを友人と共有したり、グループでのリスニングセッションを始めたいと考え始めます。
- 興味・関心:Spotifyのユーザーが友人とプロダクトを共有すると、友人もプロダクトを利用したくなります。そして、興味・関心から新しいサイクルが始まります。
このサイクルを通じ、素晴らしい体験が音楽リスナーをリピーターへと導くのです。そして、ソーシャルシェア(共有)機能によってより多くのユーザーを獲得し、マーケティング施策への依存を軽減します。
ワークシートでPLGの成長戦略を描く
さて、PLGの基本を学んだら、次は自社のPLG戦略を考えてみましょう。図2をもとにした、フリーミアムや無料トライアルのカスタマージャーニーをマップ化したテンプレートを用意しました。このシートは無料でダウンロードできます。

上記の画像は、ワークシートの記入例を示しています。ワークシートは空白になっているので、ぜひ自由に記入してみてださい。
このワークシートでは、下記を通じてPLGの基礎作りのためのエクササイズも実践できます。
- 潜在的なリスクと障壁を特定する
- マネタイズを高めるための方法をブレインストーミングする
- エンゲージメントとリテンションを強化するプロダクト内の「好循環ループ」を図式化する
ぜひ、PLGワークシートをダウンロードし、自社の戦略にお役立てください。(ダウンロードはこちら)
プロダクト分析のプラットフォームでPLGを実現
プロダクトを中心にビジネスを方向付けるのは簡単なことではありません。しかし、ビジネスを拡大し、収益性を高められるPLGは、実践する価値があります。まずはノーススターメトリックスを定義し、プロダクトにすでに存在するグロースのループ(フライホイール)を特定して増幅させる方法を学びましょう。
グロースループを特定するためのガイドブックはこちらからダウンロードできます。
プロダクトのインサイトは、PLGを成長させるために必要不可欠です。プロダクトから得たインサイトを活用することで、データに裏付けられた投資を行えるようになるのが、その理由です。プロダクト分析のプラットフォームであるAmplitudeが、御社のグロース戦略を次の段階へと導きます。
PLG実践のジャーニーを始めるため、まずはAmplitudeのスタータープランで以下をお試しください。
- プロダクトインサイトの探索
- ユーザー体験の向上
- ユーザー行動の追跡
- プロダクト機能のA/Bテスト
- マーケティングメッセージのパーソナライズ
- 安全で信頼性の高いデータ管理
スタータープランの実施をする際にクレジットカードを登録する必要はありません。さらに機能が必要な場合は、プロダクト分析を次のレベルに引き上げるお手伝いをします。それが、PLGであり、Amplitudeが実践しています。